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東京地方裁判所 昭和51年(ワ)2968号 判決

原告 ユニバーサルリース株式会社

右代表者代表取締役 金古一郎

右訴訟代理人弁護士 清瀬三郎

同 大房孝次

被告 田辺紙工機械製造株式会社

右代表者代表取締役 田村武雄

右訴訟代理人弁護士 磯村義利

主文

一  被告は、原告に対し、金一九三万一二四〇円及びこれに対する昭和五一年四月二〇日より完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金一九三一万二四〇〇円及びこれに対する昭和五一年四月二〇日より完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、産業機械の賃貸借及び売買を目的とする会社であり、顧客が購入を希望する機械について、顧客の指定する製造業者より買入れ、これに金利を加算して延払い方式にて顧客に販売する業務も行なっており、これは、実質においては、顧客の欲する機械の購入資金を融資する機能を果しており、その際、原告は代金支払を担保するため、当該機械について支払いが完了するまで原告に所有権を留保することとしている。

2(1)  訴外甲野紙器株式会社(以下訴外会社という)代表取締役甲野太郎は、被告より製函機(一〇〇〇ワンタッチケースグルアー、以下本件機械という)を実際には購入資金の融資を受けるという名目で資金を騙取しようと企て、昭和四九年五月下旬頃、原告に対し、被告製造にかかる本件機械のパンフレット及び見積書を添えて、本件機械を原告に買入れてもらい、これを原告より購入する旨の申込をなし、原告はこれを承諾した。

(2) 訴外会社は、同年七月二〇日、原告に対し、真実は本件機械の納入がないのに、納入された旨の虚偽の通知をなし、同月二九日、被告の営業担当者と称する者が、被告発行の請求書を持参してきたので、原告は、その者との間に、代金額を二七二〇万、内訳は小切手にて九二〇万円、支払期日を同年八月末日とする約束手形にて一八〇〇万円を支払う旨約し、同月三一日、被告の営業担当者と称する者が被告発行の領収書を持参してきたので、原告は、その者に対し、右金額の小切手および約束手形を右領収書と引換えに交付した。

(3) 原告は、右小切手および約束手形を期日に決済したので、額面金額の合計である二七二〇万円の損害を蒙った。

(4) その後、訴外会社は、原告に対し、昭和四九年八月から昭和五〇年七月までの間に、合計七八八万七六〇〇円を支払ったので、原告の損害額は一九三一万二四〇〇円となった。

3(1)  被告は、紙工機械等の製造販売を目的とする会社であり、訴外乙山一郎は、被告の営業を担当している従業員である。

(2) 乙山は、甲野より、本件機械の購入を仮装して購入資金名下に資金を引出すことについて協力を求められ、昭和四九年五月頃、甲野に対し、虚偽の売買契約締結に必要な本件機械の被告のパンフレット、見積書を交付し、さらに、同年七月頃、売買代金名下に金員を受領するに必要な被告社印の押捺のある請求書、領収書を交付した。

(3) 乙山の右行為は、外形的に被告の事業の範囲内であり、かつ、被用者の職務の範囲内である。

4  よって、原告は被告に対し、不法行為による損害賠償金一九三一万二四〇〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五一年四月二〇日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は知らない。

2  同2の事実は知らない。

3  同3の事実中、(1)は認める。(2)につき乙山が、主張の如きパンフレット、見積書、請求書、領収書を甲野に交付したことは認めるが、その余は否認する、(3)は否認する。

4  本件における原告の損失は、専ら原告の担当社員丙川が丁原と共謀し、原告より、小切手、約束手形を騙取したことにより生じたものであって、被告社員乙山が被告の見積書等の用紙を甲野に貸与したことによるものではない。

三  抗弁

1  本件は、原告の担当社員丙川が丁原と共謀して、原告より小切手、約束手形を騙取したものであり、これは、原告の過失と同視さるべきである。

2  仮にそうでないとしても、原告には、

(1) 本件機械が訴外会社に納入されたか否かを、現場において確認していない、

(2) 本件機械は高額であり、見積書の宛名も原告でないのに、売買契約締結にあたり、被告と少しも接触していない、

(3) 売買代金の支払にあたり、被告の使者であるかを被告に電話等で確認しこの者に支払うか、もしくは被告の取引銀行に振込むべきであるのに、印鑑証明書の添付もない単なる領収書所持人に支払っている、

等の過失があり、損害賠償額の算定において大巾に斟酌さるべきである。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は否認する。

2  抗弁2の事実は明らかに争わないが、これらの事実をもって原告に過失ありとする主張は争う。

(1) 原告担当社員丙川は、訴外会社へ本件機械の検収に行ったのであるが、訴外会社代表取締役甲野が遠くから本件機械と類似した別の機械を見せ、詳細について検収する余裕を与えず、直ちに応接間に引戻すような行為をなしたものであって、丙川は甲野の右悪意に気付かず、被告は一流会社でまさか納入していないようなことは考えられないので、詳細な検収をしなかったのである。

(2) 原告が被告と契約締結にあたり直接接触しなかった点については、被告は一流メーカーであってその見積書は通常信用するに足りるし、機械を欲する顧客とメーカーとが直接接触して値段等の交渉をした方がよいし、さらに、原被告間の取引は、本件が二回目であって、最初の取引は順調に行なわれたからである。見積書の宛名は、顧客の欲する機械につき、まず顧客がメーカーより見積書を取ることから取引が始まるため、訴外会社となるのである。

(3) 原告にとって被告との取引は二回目であり、最初の取引の際に受取った領収書と同一のものを持参した者に対し、その領収書と引換えに代金を支払った。原告の支払条件は、原則として、三〇日後を満期とする約束手形によっているため、銀行振込の方法はとり得ない。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因について

1  《証拠省略》によれば請求原因1の事実を認めることができる。

2(1)  請求原因2(1)の事実について判断するに、《証拠省略》を総合すれば、訴外会社代表取締役甲野太郎は、昭和四九年五月頃、会社の資金繰りに極度に苦しんでいたところ、訴外戊田紙業株式会社代表取締役戊山夏夫から訴外丁海印刷株式会社代表取締役丁原秋夫を紹介され、右丁原から、実際には機械を購入しなくても、機械購入の形式を整えれば金融機関から融資を受けることができる、そのためには右売買の形式をとるための書類をそろえる必要があると教えられ、永年の取引先である被告の営業担当者乙山一郎に、右事情を打ち明け「融資先に、見積書、パンフレットを提出して機械を買う形式でお金を出してもらうので、何とかしてくれ。」と依頼したこと、乙山はこれに応じ、訴外会社は真実は機械を購入する意思はなく、ただ売買契約を仮装するために使用するものであることを知りながら、本件機械の被告のパンフレット、見積書、請求書、領収書を甲野に渡したこと、右見積書には乙山において日付、機械名、金額、宛名(訴外会社)を記入したうえ被告社印を押捺し、右請求書、領収書は被告社印の押捺あるほかは不動文字以外は白紙であるものを渡したこと、甲野はこれらの書類をそのまま丁原に交付したこと、原告社員丙川春夫は、当時、原告が売買契約を結ぶ機械について真実顧客に納入されているか否かを検収する業務を担当していた者であるが、同年七月一一日、訴外会社へ検収に行った際、本件機械が納入されているか否かを見ることもなく、丁原、甲野、丙川が共謀して、訴外会社が実際に機械を納入する意思もなく、その事実もないのに、甲野が乙山より交付を受けてきた見積書、請求書を使用してこれに必要事項を記入し、本件機械を原告に被告から買入れてもらい、これをさらに延払方式で訴外会社に売却してもらうための購入申込書、延払販売契約書を作成し、これを丙川経由で原告に提出し、原告は、その頃、本件機械が真実訴外会社に納入されており、原告が被告に売買代金を支払うことにより本件機械の所有権を取得し、これを訴外会社に延払方式で販売をなし得る旨誤信し、右申込を承諾したことを認めることができ(る。)《証拠判断省略》

(2)  請求原因2(2)の事実については、《証拠省略》を総合すれば、甲野は、同年七月二二日、甲野が乙山より交付を受けた前記領収書に、丁原において金額欄に二七二〇万円と記入したものを、丁原より受取り、なお、訴外会社社員を被告社員と名乗らせて原告方へ本件機械の代金を取りにいかせるよう、丁原より指示され、訴外会社社員甲海松夫にその旨述べ領収書を持たせて集金に行かせたこと、原告担当者は、甲海を被告社員と考えて、右領収書と引換えに、本件機械の売買代金二七二〇万円を小切手で九二〇万円、約束手形で一八〇〇万円の内訳で支払ったこと、甲野は、右同日、小切手を三菱銀行本所支店で換金し、訴外会社の運転資金として使用し、約束手形は名宛人が被告となっていたので、これを丁原に交付し、代わりに、戊田紙業株式会社振出の額面二五〇万円の約束手形七通の交付を受け、これを割引きに出して、訴外会社の借金の返済にあてたこと、以上の事実を認めることができる。

(3)  請求原因2(3)の事実については、弁論の全趣旨によりこれを認めることができる。

(4)  請求原因2(4)の事実については、《証拠省略》によれば、訴外会社は原告に対する延払金額を昭和四九年八月より支払はじめたが、同年一〇月二五日倒産して支払ができなくなり、そのあと戊田紙業株式会社代表取締役戊山において数回延払金の支払をなし、昭和五〇年七月までの間に、両者合計七八八万七六〇〇円の支払がなされたことを認めることができる。

3(1)  請求原因3(1)の事実は当事者間に争いがない。

(2)  前示認定事実よりして、乙山は、訴外会社が真実機械を購入する意思はなく、ただ仮装の売買契約をなしたものとして融資先から金員の受領を受けることを知りながら、右売買契約仮装のため本件機械のパンフレット、見積書、請求書を、売買代金名下に金員を受領するため領収書を、各甲野に交付しているのであって、機械購入について本件の如き取引方法があることを知悉している乙山としては、これらの書類がそろっていることにより、顧客において機械を購入し、既に被告から納入済みであると誤信した金融機関において領収書所持者に売買代金を支払い、これにより損害を蒙る場合があることは充分予測し得たものというべく、乙山は、故意または少なくとも過失により甲野らの不法行為に加担したものというべきである。

(3)  前記(1)判示の事実によれば、乙山の右行為は、外形的にみて、被告の業務の執行につきなされたものと認めるのが相当である。

4  したがって、被告は、乙山の使用者として、乙山の右行為により原告の蒙った損害を賠償する義務があるというべきである。

二  抗弁について

《証拠省略》によれば、丁原と丙川は、共謀して、本件と類似の方法で(ただし機械の販売元は被告のほか訴外株式会社乙河その他がある、購入先たる顧客は丁海印刷株式会社、戊田紙業株式会社、訴外会社)、原告から、昭和四八年九月から、昭和五〇年四月までの間、本件も含め七件(ただし一件は丙川のみで行う)、金額合計三億一一八五万円を騙取した疑いで東京地方検察庁より起訴され、現在東京地方裁判所において審理が行なわれていること、これらの金員は、丁原において丁海印刷株式会社の資金に、一部は戊山において戊田紙業株式会社の資金にあてたほか、一部は利息による収益をはかって第三者に貸付けられたこと、いずれにおいても、原告社員丙川は顧客に機械が納入されていないのに納入された旨の虚偽の報告をなし、これらの一連の行為に加担した謝礼として丁原より(実際の出捐者は戊田紙業株式会社)、昭和四九年一月から事件が発覚しはじめた昭和五〇年六月頃まで一か月二〇万円の金員を受領していた疑いがあること、以上の事実を認めることができる。

本件についてみれば、原告の営業担当社員丙川は、丁原、甲野と共謀し、原告より売買代金名下に金員を騙取し、その際、本件機械が訴外会社に納入されている旨の虚偽の報告をなし、仮装の売買契約締結手続を行なう等の行為をしており、右行為は外形的には原告の営業担当社員丙川の業務としてなされたものであることが認められるので、右事情は社会通念上被害者たる原告の過失と同視すべきであり、原告の損害額の算定にあたり、これを斟酌するのが相当である。

そこで、被告社員乙山と原告社員丙川との本件不法行為における関与の度合等を考慮し、被告は原告に対し、原告の蒙った前記損害一九三一万二四〇〇円のうち、その一割たる一九三万一二四〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和五一年四月二〇日より完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があると認むべきである。

三  結論

よって、その余の点につき判断するまでもなく、原告の本訴請求は右限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 関野杜滋子)

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